新型ワクチン「実費負担」

10月中旬までに、厚労省が標準的な優先接種のスケジュールを目安として提示。これを踏まえ、都道府県が具体的な優先接種時期を決定する。優先接種対象者ごとの接種期間はそれぞれ1か月半で、その間に1人2回接種する。期間前に接種を求めても優先接種期間まで待つことになるが、期間後に接種を求めてきた場合には接種できる。しかし、既に感染した人について、厚労省の担当者は「一度罹患すれば免疫ができるはずなので、対象から外れる」との考えを示した
ワクチンの流通は10月下旬以降になる見通しで、政府が各製造業者から一括購入し、都道府県ごとの配分量を決定。これを受けて各都道府県が受託医療機関ごとの納入量を判断し、卸売業者に指示する。受託医療機関は、定期的に在庫量と必要量を都道府県に報告する
接種の費用は、実費相当額を受託医療機関が徴収する。ただし、低所得者に対しては負担軽減を検討する。金額は全国一律になる見通しだが、厚労省の担当者は、具体的には輸入の契約にもよるとして、明言しなかった
接種によって副反応が生じた場合については、受託医療機関から厚労省に直接報告するよう求めることを、今後作成する実施要綱で定める。健康被害に対する補償は今後検討するが、現行制度でも独立行政法人医薬品医療機器総合機構の「医薬品副作用救済制度」による補償の対象になるという


本日の株式市場の全般的な動き

 ■□ 本日の株式市場の全般的な動き □■

 2008年10月10日の東京株式市場は日経平均株価が大幅続落いたしました。
昨晩の米NY株式市場は大幅続落。DOWは−678ドルの8,579ドル、NASDAQ総合指数は−95.21ポイントの1,645.12ポイントでした。
 シカゴ平均株価先物大証終値−585円の8,615円。寄り付き前の外資系証券13社経由の注文状況は、売り1900万株、買い3290万株で、差し引き1390万株の大幅買い越し観測でした(金額ベースも買い越し)。

 東京株式市場は世界的な金融危機や景気減速が警戒され再び暴落。日経平均株価始値9,016円と前日終値9,157円から141円安くスタート。売り気配が続き−1,042円の8,115円まで一気に下落。その後も8,000円台前半で全面安商状が続きました。引けは−881円の8,276円で本日の取引を終了しております。
 東証1部の騰落数は、値上がり175銘柄、値下がり1,499銘柄、変わらずは40銘柄。東証1部の売買代金は2兆6,353億円、売買高は32億7,441万株となっております。

 ■□ 主力株・1部2部銘柄などの動き □■

 週末金曜日、本日の東京株式市場は大暴落となりました。米NY株の暴落に加え、大和生命保険の経営破綻、為替の円高加速などが悪材料となり全面安となりました。
 個別では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)、三井住友フィナンシャルグループ(8316)、りそなホールディングス(8309)など大手銀行株や、野村ホールディングス(8604)、大和証券グループ本社(8601)など証券株が反落。

 新日本製鐵(5401)、 住友金属工業(5405)、ジェイ エフ イー ホールディングス(5411)など鉄鋼株や、三菱マテリアル(5711)、東邦亜鉛(5707)、大阪チタニウムテクノロジーズ(5726)など非鉄金属株、ソニー(6758)、キヤノン(7751)、京セラ(6971)などハイテク株が売られ下落。
 また、トヨタ自動車(7203)、ホンダ(7267)、日産自動車(7201)など自動車株、日本郵船(9101)、商船三井(9104)、川崎汽船(9107)など海運株、三井不動産(8801)、三菱地所(8802)、平和不動産(8803)など不動産株が揃って下落いたしました。

 その中、業績予想の上方修正から愛知機械工業(7263)が買われ上昇したのを始め、日本電産サンキョー(7757)、よみうりランド(9671)、アトリウム(8993)、ピーエス三菱(1871)、ハニーズ(2792)、OKK(6205)などが買われ逆行高となりました。
 反面、パソナグループ(2168)、セキュアード・キャピタル・ジャパン(2392)、博報堂DYホールディングス(2433)、ジェイコム(2462)、宝ホールディングス(2531)、日産化学工業(4021)、協和発酵キリン(4151)、ソースネクスト(4344)、武田薬品工業(4502)、大日本住友製薬(4506)、トレンドマイクロ(4704)など非常に多くの銘柄がストップ安に沈みました。

 ■□ 新興市場銘柄の動きと投資戦略 □■

 本日の新興市場は売りに押され大幅下落となりました。主力株では、ミクシィ(2121)は上昇いたしましたが、ACCESS(4813)、GCAサヴィアングループ(2174)、ぐるなび(2440)、サイバーエージェント(4751)、スタートトゥデイ(3092)、ザッパラス(3770)、フルスピード(2159)などが揃って下落。
 新興3市場は、JASDAQ平均、マザーズ指数、ヘラクレス指数が揃って下落いたしました。

 個別では、デジタルアーツ(2326)、ユー・エス・ジェイ(2142)、ディップ(2379)、総医研ホールディングス(2385)、エムケーキャピタルマネージメント(2478)、メビックス(3780)、パラカ(4809)、マルマエ(6264)など多くの銘柄が値幅制限いっぱいまで売られストップ安。一方、エヌ・ピー・シー(6255)、エス・エム・エス(2175)、サイバーファーム(2377)などは上昇いたしました。

 しかし酷い下落です。これほどの下落は過去に無く日経225先物ではサーキットブレイカーが発動する事態となるなど市場は大混乱となりました。9時40分前後から為替や債券の値動きとあわせ、やや落ち着きを見せましたが、その時点でも日経平均株価は8,200円台と目を疑う数値。
 本日の動きはテクニカル分析では通用しない未知の領域。単なる暴落ではなく金融恐慌に突入。世界同時株安は負の連鎖から下げが加速し「金融危機は当面収束しない」との見方が強まっております。

 しかし恐怖の中、個別銘柄の多くは下げ渋る動きも見せております。市場では『3連休前ということも売りを急がせた。本日が底』との声も出ております。日経平均株価が900円幅の下げとなる中、後場下げ渋る動きに変わっただけで、既に大きく下げている個別銘柄の多くはジリジリと下げ幅を縮小する動きに転じました。
 ですので連休明け日経平均の下げが止まるか、或いは穏やかになるだけで暴落銘柄はスルスルと上げてくることが考えられます。来週はテクニカル的な異常値からの異常分を修復する動き(反発)を待ちます。
 日経平均株価はズルズルと下落しておりますが、既に深く深く下落している提案銘柄の多くは、引けにかけて下げ幅を縮小する動きとなっており、中には前日比プラスの銘柄もございます。ピンチかチャンスか、来週も持続方針で向かいます。

 ■□ 日経平均株価の動向と予想 □■

 本日の日経平均株価は−881円の8,276円と大幅下落。7日続落です。
 昨晩の米NY株式市場は下落。7営業日続落となりました。モルガン・スタンレーは25.9%安。ゼネラル・モーターズ(GM)は31.1%安と1950年以来の安値を記録。NYDOWは2003年5月以来の8600ドル割れとなりました。

 東京株式市場は、米NY株式市場の下落や為替の円高加速、シカゴ平均株価先物大証終値−585円の8,615円まで大きく売られたことなどが嫌気され売り気配で取引を開始いたしました。
 日経平均株価始値は−147円の9,016円と表示されましたが、その後は売り気配が続き一気に900円安。後場に入りもみ合いながら少し下げ幅を縮小する動きとなりましたが、引けは−881円の8,276円。安値は−1,042円の8,115円と下げ幅は1,000円を超えた場面がありました。
 中期基調は下向き。短期基調も下向き継続となっております。日経平均株価のサイコロは●●●●○●●●●●●●と「1勝11敗」。日足は大陰線で安値を大幅に更新。クラッシュ安。

 8日水曜日の歴史的暴落952円安から、昨日は45円安と一服、そして本日881円安と過去に無い異常事態。日経平均株価終値は25日移動平均線11,402円からマイナス乖離率は27.41%に達し、恐らく今後破られない記録となるものと思われます。
 正に激動の1週間でしたが、連休明けは落ち着きを取り戻しつつ下げ止まりからリバウンドとなることと思われます。

 


10/10 18:07
来週は米金融大手の決算を無事通過できるか否かが焦点に
 来週は波乱含みの展開となりそうだ。日経平均心理的な節目の8000円及び10月限SQ値(7992.60円)を割り込むと、2003年4月末につけたバブル崩壊後の安値7603円が視野に入ろう。ただ、日経平均の25日移動平均乖離率が-27.4%に達するなど、下げが急ピッチなうえ、バリュエーション面では説明がつかない水準まで下落している。具体的には、東証1部の騰落レシオ(25日移動平均)が「売られ過ぎ」と言われる70%を大幅に割り込み、東証1部の配当利回りも歴史的な高水準、PBR1倍割れの銘柄も急増している。投資家心理は極度に冷え込んでいるが、外部環境が好転に向かう兆候が見えればショート・カバーやリバウンド狙いの買いが入っても不思議ではない。

 今週は世界10中銀中銀による緊急利下げ、英国政府による大手金融機関に対する公的資金の注入(最大500億ポンド、約8兆8000億円)、ポールソン米財務長官が金融機関への公的資金注入を示唆するなど、金融危機打開策が相次いだが消化不良に終わった。万策尽きた感は無きにしもあらずだが、震源地の米国が金融機関へ強制的に公的資金注入などの動きが見られれば、新たな局面を迎える可能性がある。その意味でも、シカゴ・オプション取引所の「恐怖指数」との異名を取るVIX(ボラティリティー)指数や、利下げにも関わらず高止まりする銀行間金利などの動向に注目したい。

 日本の主力企業の中間決算発表は10月下旬からスタートするが、米国では一足先に主力企業の四半期決算を開始。先陣を切ったアルコアは大幅減益で、株価が急落するなど暗雲が漂っている。来週はインテルノキア、シティなど主力株の決算発表が多数予定されている。インテル半導体業界のみならず、ハイテク全体への影響度が大きいだけに、足元の実績および今後の見通しは要注目だろう。また、米金融危機の行方を占う意味でもシティの決算を無事通過できるか否かも注目される。

大台キープできるか否かの正念場を迎える

世界同時株安の津波東京市場を襲った。6日の米国株式市場では、NYダウが一時800ドル超の急落。大引けにかけて急速に下げ渋ったが、約4年ぶりに10000ドルの大台を割り込んだ。新興市場では、ロシア株が20%弱下落したのを筆頭に、ブラジルが5.4%安、インドが5.8%安、中国が5.2%安と、BRICs諸国が相次いで急落。欧州市場では、英国市場のFTSEが7.9%安と過去最大の下落を記録するなど総崩れ。東京市場にも、寄り付きから売り注文が殺到し、日経平均は2003年12月以来(4年10ヵ月)ぶりに心理的な節目の10000円を割り込んだ。ただ、突っ込み警戒感や公的年金買い観測などを背景に下げ渋り。豪州による大幅利下げによる円高一服を受けて、後場急速に下げ渋る場面を演出したが大引けにかけての値動きをみると戻りの鈍さは否めない。

 東証1部で年初来安値を更新した銘柄数は1202(前日は933)に増加。1月16日(1165)を上回り今年最多を記録した。コマツ任天堂などのように国際優良株の一角で、安値更新後に切り返したところをみると、相場底入れのサインの可能性もある。ただ、世界的に景気後退色が強まるなかで、欧米の金融危機が沈静化の兆候がない状況では、反発は難しそう。6日の米国市場ではシカゴ・オプション取引所の「恐怖指数」との異名を取るVIX(ボラティリティー)指数が52.05 (前日比+6.91、+15.3%)と過去最高を記録、7日の欧州市場では金融株が急落しているだけに、あすも日経平均が10000円を割り込むことは十分考えられる。4年10ヵ月ぶりの日経平均10000円割れという事態は、かなりショッキングな事象だったが再度10000円割れとなれば、様子見を決め込む投資家が増えそうだ。

第91回「聞こえてきた世界大不況の足音――サブプライムローン問題の本番はこれから」(2008/10/06)
 1年前の筆者のいやな予感が的中してサブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)問題が急拡大し、世界中が金融危機におびえている(本コラム第83回「時限爆弾化するアメリカ――サブプライムローン問題は世界不況の前触れ?」)。
 わが国では官房長官が「ダメージは限定的」と対岸の火事的なコメントをしていたが、全くの見当違いだ。今回の危機の底流には世界的な構造問題があり、世界は5〜10年単位の「混乱と大不況の時代」に突入したと見るべきだ。
巨大なヘッジファンドと化した投資銀行
 その第1の理由は、1980年代以降の世界経済を直接・間接にリードしてきたアメリカ型投資銀行のビジネスモデルが崩壊したことだ。
 アメリカの投資銀行は、1860年代の南北戦争時に、北軍の依頼で戦時国債を売りさばくことで手数料を稼いだジョン・クックを嚆矢(こうし)とする。以来100年近くにわたり、顧客への資金調達支援と財務戦略助言を本業としてきた。


 だが、1980年代に入ると市場相手のトレーディングや自己投資業務が台頭し、たちまち伝統的投資銀行業務を凌駕(りょうが)した。投資銀行新時代の幕開けだ。
 そのけん引役はソロモン・ブラザーズ(現シティグループ)やゴールドマン・サックスなどの新興勢力であり、今日の投資銀行全盛時代を築いてきた。この間、ミニ投資銀行ともいうべきヘッジファンドも雨後のタケノコのように誕生した。


 近年、彼らは勢いを加速させており、たとえば業界トップのゴールドマン・サックスは、2005年から07年までのわずか2年間でトレーディング・自己投資部門の粗利益を1.8倍に拡大し、昨年は収益全体の3分の2以上をたたき出している。


 いまや投資銀行自体が巨大なヘッジファンドだといっても過言ではない。
“3種の神器”によって編み出された虚構の金融市場


 このトレーディングや自己投資業務を支えたのは、金融工学を核とする先端金融技術の発展であり、その柱は、証券化デリバティブレバレッジという3種の神器だ。


 ここで詳細を解説する余裕はないが、証券化はリスクを分散し、デリバティブはリスクをヘッジする金融技術である。レバレッジは、借入金で投資資金を数倍に膨らませて資本効率を倍増させるという、革命的な金融技術であり、最近の投資銀行自己資本の30倍近い借り入れを集めて巨額の投資活動を展開している。


 彼らは、この3種の神器を複雑に組み合わせることで無限の投機商品を開発し、次々と新市場を開拓していった。いわば、実体経済と乖離(かいり)した虚構の金融市場を構築し、カジノマネーを増殖させていったのだ。
証券化商品の発行額も昨年1年間だけで1.6兆ドル(約168兆円)に達し、企業の債務不履行を保証する商品の残高も62兆ドル(約6500兆円)に上る。この証券化商品はさらに様々な金融商品デリバティブに組み込まれて、その数十倍の規模で世界中の金融市場に拡散される。


 そのデリバティブの残高は2007年6月末時点で516兆ドル(約5京4000兆円)に達した。世界の国内総生産(GDP)は約54兆ドルだから、いわば実業の世界の実に10倍近い虚構の世界が広がっている。


 かくして、カジノマネーの象徴ともいうべきヘッジファンドだけでも、その資産規模はこの5年間で実に3倍も膨張し、昨年末は約1.9兆ドル(約200兆円)に達した。これに銀行借り入れ(レバレッジ)を加えれば、4.8兆ドル(約500兆円)〜6.7兆ドル(約700兆円)という、わが国予算の6〜8倍もの投機資金が、世界中を駆け巡っていることになる。


 サブプライムローン問題の本質は、こうした投機市場が臨界点に達したことにある。


投資銀行ビジネスは完全に頓挫


 アメリカ政府は、98年のロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)破綻の際も、「いざとなれば市場に資金供給すれば危機を回避できる」という対症療法だけを学び、その後も野放図に投資銀行ビジネスを拡大させてきた。今そのツケが一気にはじけ、LTCM破綻時の数十倍のマグニチュードで世界を襲っているのだ。


 だが、今回の一連の救済的再編劇の中でアメリカの投資銀行はすべて銀行業に組み込まれ、今後は米連邦準備理事会(FRB)や国際決済銀行(BIS)の厳しい監視下に置かれる。特に、レバレッジに対する規制が強化されることは確実であり、投資銀行ビジネスにとっては財源を失うという、決定的な打撃になるはずだ。


 かくして、これまでのような先端金融技術を使った市場開拓は完全に行き詰まったと見るべきだろう。


モラルなき利益追求に注がれる厳しい目


 倫理やモラルハザードの問題も見逃せない。80年代以降の投資銀行ビジネスは、常に金融犯罪や社会的批判の問題を内包しながら拡大してきた。


 80年代後半のゴールドマン・サックスなどによるアイバン・ボウスキー関連のインサイダー事件、91年のソロモン・ブラザーズによる国債不正入札事件、90年代のモルガン・スタンレーなどによる新規株式公開(IPO)市場操作事件、2000年のシティグループソロモン・スミス・バーニー部門)などによるエンロンワールドコム不正会計事件、04年のシティグループ日本法人によるマネーロンダリング事件など、枚挙にいとまがない。


 今回のサブプライム問題でも、すでに米連邦捜査局FBI)や米証券取引委員会(SEC)がモルガン・スタンレーなど14社について、詐欺容疑などで捜査に着手した。


 先日、経済小説家黒木亮氏からの依頼で彼のベストセラー「巨大投資銀行」の解説文を書いた(今月中に文庫本化の予定)。本書では投資銀行ビジネスの強引な商法が随所に登場するが、そのほとんどが実話であり、改めて投資銀行の強烈な拝金主義と壮大なモラルハザードに吐息が出る。


 今回の公的資金の投入について多くのアメリカ国民が反発している背景には、「なぜ反社会的行為で暴利をむさぼっていた金融機関を救済しなければならないのか」という根強い不満があり、政府も議会もこれを無視することはできまい。ヨーロッパ各国も今は目前の危機回避に精一杯だが、一段落すればアメリカ批判を噴出させることは明らかだ。


 かくして、投資銀行ビジネスは企業倫理の観点からも今後大きな制約を受けることは明白であり、これまでのような「濡れ手で粟(あわ)」の時代は幕を下ろす。
第2に、こうした投資銀行ビジネスの行き詰まりはアメリカ経済に甚大なダメージを与える。


 アメリカにとって、金融・不動産業は今やGDPに占めるシェアが20%を超える最大の産業に成長しており、その中核を投資銀行ビジネスが担ってきた。


 投資銀行業務は80年からの15年間で実に14倍、ファンド・ビジネスは16倍に急成長した。この4半世紀、凋落(ちょうらく)するアメリカ経済をカバーしてきたのは投資銀行ビジネスだったといっても過言ではない。


 しかも、投資銀行ビジネスは、商業銀行、機関投資家、保険会社、不動産、弁護士、会計士などを巻き込む、すそ野の広い産業だ。


 例えば、商業銀行は、巨額のレバレッジ資金を投資銀行ヘッジファンドに貸し付けることで高収益をあげてきたし、機関投資家地方銀行などは投資銀行のリスク商品を資金運用することで高実績を確保してきた。保険会社は証券化商品やデリバティブに保険を付与し、弁護士は膨大な契約に介入して手数料を稼いだ。もちろん、不動産業とは証券化やプロジェクト・ファイナンスなどを通じて一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係を築いてきた。


 いわば、投資銀行ビジネスは巨大な連合艦隊であり、空母役である投資銀行の存在は圧倒的だ。ゴールドマン・サックスの昨年の純利益は115億ドルとシティグループ銀行部門の120億ドルに肩を並べる。


 その空母が機能不全に陥れば、金融界のみならず産業界全体に大きなダメージを与えることは間違いない。

家計も直撃、不況は長期化へ


 さらに、投資銀行ビジネスの停滞は個人の家計も直撃する。周知のとおり、アメリカは証券の国、投資の国だ。家計の資産構成は投信・株式が43.2%と圧倒的に高く、現預金割合は13.9%と極端に低い(わが国は52.0%)。


 今回アメリカの一般国民がサブプライムローン問題で受けたダメージは、われわれの想像以上に甚大で、今後消費や住宅建設の減退などの形で実体経済を直撃することは間違いない。


 筆者は87年のブラックマンデー直後からの4年間ニューヨークに駐在したが、アメリカでは町中に物乞いがあふれるなど、その後3年近くも深刻な不況が続いた。結局、その時は日本から流入した大量のバブル資金で息を吹き返していったが、今回は救世主出現の期待は薄く、不況の長期化は不可避だ。
 第3の懸念は、今やこのアメリカ的な金融風土が世界中に拡大していることだ。


 筆者は、この7月、数年ぶりにイギリスを訪問したが、様々な場面で「アメリカ化」を実感した。金融街ティーウォール街から転職してきたインベストメントバンカーであふれ、別地域に新金融街を拡張するほど膨張していた。伝統的な銀行業やマーチャントバンクが中心だったシティーは、この10年間で第2ウォール街に変貌(へんぼう)したようだ。


 この間マンションなどの不動産価格は異常に高騰し、完全に投資商品化した。ロンドンの1等地では日本の高級マンション価格を凌駕(りょうが)するほどだ。


 一般国民は不動産や株式投資への関心を格段に高め、富裕層はますます豊かになった。サウス・ケンジントンの高級住宅街にはスノビッシュなレストランが出現し、超高級車ランボルギーニベントレーのディーラーが立ち並ぶ。「質実剛健の国イギリス」も、いつの間にか拝金主義的な「アメリカ化」の大波をかぶっていたのだ。


 多くのイギリス人は、この10年近く続いた繁栄は外資による「ウィンブルドン化」が最大要因だといい、そのけん引役は金融であり、投資銀行ビジネスだったと異口同音に解説する。だが、今はそれが裏目に出ている。不動産価格は昨年半ばから突然20%近くも下落し、2004年以降発表されたオフィスビル建設計画19件のうち、16件が滞っているという。いうまでもなく、投資銀行ビジネスにブレーキがかかり、海外からの投資資金が急減したからだ。


 個人の消費意欲も急速に減退し、財務大臣が「この60年間で最悪の下降局面に直面している」とコメントするほど不況色を強めている。


エピゴーネン(追随者)たちの浮沈


 スイスやドイツなど他の先進ヨーロッパ諸国も事情は類似する。


 その象徴はスイスのUBSだろう。UBSは、91年のオコナー社を皮切りに投資銀行の買収を重ね、わずか10年足らずで小国の商業銀行から世界有数の投資銀行に駆け上がった。だが、彼らはLTCM破綻のときも今回のサブプライムローン問題でも深刻な経営危機に陥った。


 筆者には、結局UBSはアメリカ的な投資銀行になりきれなかったことが最大の敗因だったように思えてならない。アメリカの投資銀行のように、商品や市場をオリジネート(創造)することなく、もっぱらレバレッジ貸し出しや金融商品の運用など、いわば脇役を演じてきたように見えるのだ。


 その結果、いつも制御困難なリスクの海を航海させられ、アメリカのヘッジファンド投資銀行がつまずく都度、その直撃を受けてきたのではないか(本コラム第88回「UBS3度目の失敗――人間はどこまでリスクを管理できるのか」)。


 他のヨーロッパの金融機関も同様だ。外見は投資銀行的でも、ビジネスの大部分をアメリカの投資銀行ヘッジファンドに依存しているのが実態だろう。今、UBSだけでなく、金融機関の優等生といわれたイギリスのロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)までもが株価を急落させて緊張を高めている。


 今回のサブプライムローン問題は、結局ヨーロッパの金融機関もアメリ投資銀行ビジネスの連合艦隊に組み込まれていたという実態を浮き彫りにした。アメリカの投資銀行ビジネスの凋落はヨーロッパの金融界に構造的なダメージを与え、いずれヨーロッパ経済全体にも深刻な影響を及ぼすことは確実だ。
 第4の懸念は、サブプライムローン問題を契機とした中国のバブル崩壊だ。


 筆者は先月、大連、瀋陽ハルビンなど中国の東北部を訪問した。そこで見たのはまさに不動産バブルそのものだった。


 大連ならいざ知らず、沿岸地区から遠く離れた内陸のハルビンですら、川沿いのマンションは日本円で1億円以上もする。いうまでもなく多くは投資対象になっており、空き家も少なくない。


 現地の中国人に聞くと、銀行はマンション購入資金であれ、車の購入資金であれ、少額の頭金でいくらでも融資してくれるという。やがてマンション価格が上がれば担保余力ができ、さらに追加融資を受けて別の物件に投資する。現にどこへ行ってもマンションの建設ラッシュだった。


 この構図は、かつてのわが国のバブルや最近のアメリカの住宅バブルに酷似する。


 しかも、恐ろしいのは、彼らが退職金を全額株や不動産につぎ込むなど、クレージーな投資を繰り返していることだ。筆者は、北京や上海がバブルの渦中にあることは承知していたが、こんな地方都市までがバブルに踊っていることに衝撃を受けた。


 中国のバブルは必ずはじける。今後サブプライムローン問題の余波で中国が金融政策を転換すれば、一気にバブルがはじける可能性が高い。その時内外に与えるダメージの大きさは筆者の予想能力をはるかに超える。


中国に流入した投機マネーの行方


 この点でもうひとつ注目すべきは、最近の対中投資動向だ。


 中国は2002年以降毎年500億ドル以上という驚異のペースで海外からの直接投資を受け入れてきた。中国急成長の原動力だ。


 だが、ごく最近の流入ピッチは異常だ。06年の658億ドルから昨年は748億ドル、そして、今年は上半期だけで前年同期比45.6%増の524億ドルに膨れ上がった。その内訳をみると、不動産業が全体の22.7%の119億ドル(約1兆2500億円)と群を抜いて高い。


 さらに、当地の学者やエコノミストたちは、人民元切り上げを見込んだホットマネーの流入を示唆している(JETRO「2008年上半期の対中直接投資動向」)。中国では本来厳しい外資規制があり、投機マネーが侵入する余地は少ないが、それでも虚偽の投資報告などによる抜け穴は存在するようだ。


 筆者の推測では、こうした投機マネーはかなりの部分が最終的に不動産に流れているはずだ。1997-98年のアジア通貨危機ではないが、この投機マネーが現在の不安定な金融環境の中で一斉に引き揚げれば、一瞬のうちにバブルが崩壊するような気がしてならない。


 いずれにせよ、中国経済はハラハラ時計を抱えて走らなければならず、これまでのように世界経済の機関車役を果たし続けることは困難になるだろう。(中国レポートは別の機会に紹介したい。)

 かくして、世界経済は「混乱と大不況の時代」に突入した。わが国も、アメリ投資銀行ビジネスの連合艦隊に組み込まれていなかったという僥倖(ぎょうこう)で金融界のダメージこそ小さいが、世界経済の急落と投資マネーの縮小でかつてない難局に直面することは確実だ。今後、わが国をはじめ世界がこの苦境から脱出するには、相当の時間とエネルギーを要するだろう。


 ここで詳細を分析する余裕はないが、アメリカ経済は60年代後半から凋落をはじめ、80年代以降は投資銀行ビジネスがその穴埋めをしてきたという歴史的事実がある。政府が金融立国への転身を図り、全力で投資銀行ビジネスを後押ししてきたというほうが正確だ。


 98年のシティコープとトラベラーズの非合法な合併を承認したロバート・ルービン元財務長官も、現在のヘンリー・ポールソン財務長官も、ゴールドマン・サックス出身である。日本でいえば、野村証券の社長が財務大臣を務めるようなものだ。


 その投資銀行ビジネスが行き詰った今、ふたたび不健全なアメリカ経済と脆弱(ぜいじゃく)なドルという実態が浮き彫りになる。


「キリギリス的生き方」と決別できるか


 結局、最終的にはアメリカが財政赤字と経常赤字を改善してドルの信認を回復するしか経済再生の道はない。そのためには、ローレンス・サマーズ元財務長官が指摘するように、「アメリカ国民が身の丈に合った生活」に回帰するしかないだろう。


 国民は借金依存の消費を抑制し、政府は膨張する軍事費を削減し、FRBは拝金主義的な金融風土を改革することが必要だ。長い間「キリギリスの人生」を享受し、世界の番人を自認してきた誇り高いアメリカ人にも、しばらく「アリの人生」を忍耐してもらうしかない。
 その過程で日本をはじめアメリカに依存してきた多くの国も大きな苦痛を味わうだろうが、世界が次の新しい時代を迎えるための陣痛のようなものだ。逆に、今回も中途半端な対症療法でお茶を濁せば、近い将来、今度こそアメリカ発の大恐慌を招くに違いない。
アメリカの時代、終わりか新たな始まりか
 筆者が生まれた60年前、ブレトン・ウッズ体制によってイギリスから基軸通貨を勝ち取ったアメリカは絶頂期にあった。
 ロシアの経済学者ニコライ・コンドラチェフは「産業国家の経済的発展は50年持続する波の中に生ずる」という有名なコンドラチェフの波の理論を提唱した。
 今のアメリカに次の50年の繁栄を持続させる新しい種は芽生えているのだろうか。それとも、脳幹に刻み込まれた「アメリカが世界の中心」という観念を捨てなければならないのだろうか。
 われわれは今、世界の大きな転換期の中にいることを実感する。
さて、米国の金融激震の津波は今後いかに波及し、収斂(しゅうれん)していくか。前回述べたように今次金融大津波震源は、現行の金融システムの「構造的不具合」にある。それはニューマネー創出の有力なプレーヤーである非預金取扱機関(投資銀行や保険会社、各種ファンドなど)が、金融インフラの安全網やルール、慣行のアウトサイダーとされ、あいまいなステータスに置かれたままなことだ。
 しかも、証券化デリバティブの比重は少し前まではさほど大きくなかったが、いまや金融市場のなかで巨大な存在と化し、さらにこの膨大な証券化商品やデリバティブを媒介に、銀行ならびに各種の非銀行金融機関が「too interconnected to fail(相互に強く結びつき、いわば一蓮托生関係にあるが故につぶせない)」状態にある。一方、住宅価格の下落や景気悪化などから、金融機関は大量の不良債権を抱え込むに至っている。このため、75兆円に上る不良資産の買い取りプランが政府から迅速に提案される状況だ。


【金融津波は今後どう波及していくか】


 だが、そうした公的資金の大量投入で金融機関のバランスシートの清掃が成功したとしても、前回述べたようにそれは金融システム再生の「一里塚」でしかない。この不良債権処理は景気悪化のもとで進められるわけだから、同時にこれは金融機関の整理・清算過程でもある。


 この清算が成就した暁には、大きな金融改革が待っている。それは21世紀金融システムの構築だ。言い換えると、証券化デリバティブや非預金取扱機関をいかに金融システムに組み込むかである。それは歴史上初めての試練だ。しかし、この試練への挑戦なくして、21世紀金融システムの構築は不可能だ。


 一体、このニューヨーク発の金融大津波は、今後どう展開するのか。これらの点を踏まえ、以下、4段階の波及シナリオを素描しておこう。


[第1波]発端から現在に至る初期段階


 2007年8月9日のBNPパリバ証券による、傘下のヘッジファンドの解約凍結を機に、欧米の金融市場にくすぶっていたサブプライム問題が一挙に表面化。この時からサブプライムの嵐が間欠的に金融市場を急襲するようになった。


 昨秋でサブプライム関連の損失は16兆円前後(07年11月のバーナンキFRB議長発言)と比較的楽観視されていたが、08年4月の国際通貨基金IMF)推計で損失額は約97兆円とされた。この間に欧米の金融機関は多額の損失計上と資本増強を繰り返してきた。公的救済にまで追い込まれた金融機関は、07年9月の英国の中堅銀行ノーザン・ロックだけだった。だが、08年3月16日に米連邦準備理事会(FRB)がJPモルガン・チェースを通じてベアー・スターンズの救済に乗り出したことで、金融市場に衝撃が走り、緊張が高まった。


 これは米国の金融史からいって異例な出来事だった。それはベアー・スターンズが銀行ではなく、証券会社だったからだ。中央銀行が決済システムを維持し、信用不安や収縮の連鎖を断ち切るべく、破綻に瀕する銀行を救済するのであれば、想定外のことではない。だが、預金取扱金融機関ではないベアーの救済に、歴史上初めてFRBが動いたのだ。


 ベアー破綻を見過ごせば、米国や世界の金融市場に信用収縮の連鎖が広がるとFRBは判断したのだ。おそらく米当局もこうした異例な救済は、それ以降はめったに起こらないと考えたし、金融関係者も市場も「特殊ケース」であり、このベアー救済を契機にサブプライム問題は最悪期を脱し、これからは徐々に鎮静化に向かうと考えた。だが、夏に向かって予期せぬ、大問題が浮かび上がってきた。形式的には政府支援機関(GSE)という公的形態だが、実態的には住宅金融に特化した上場の株式会社形態のファニーメイ(FM)とフレディマック(FM)の経営危機が、住宅市況悪化の影響を受けて表面化してきたのだ。


 この2FMは民間の住宅ローン債権や住宅担保証券を大量に買い入れている巨大な存在で、政府に準じる高格付けで証券を発行し、内外から資金を調達している。政府支援企業だから、これら2FM発行の証券には、暗黙の政府保証が付されている。「too big to fail」の原則に照らしても公的救済は当然視され、政府は9月に、7月に成立した住宅公社支援法に基づき、管理下においた。


 これで市場に安堵感が広がった。やっと最悪期が過ぎたと誰もが考えた。

22日〜)には市場はやや落ち着きを取り戻したかにみえたが、依然として水面下では緊張が続いていた。そして3週目に入った29日、政府と議会で修正合意にこぎつけた金融安定化法案が、何と下院で否決され、この法案をめぐる政府、議会の協議が「仕切り直し」となるや、ニューヨーク株式市場はまたまた急落。ダウ工業株30種平均は777ドル安と過去最大の下げ幅を記録した。欧州市場でも、金融機関の経営破綻が表面化し、株価は大幅安となった。


 かくして08年10月以降の、世界の金融市場さらに世界経済の視界は、深い霧に包まれ、遮られている。まさに世界は「Fog&Fear(霧と不安)」の中にある。


[第2波]08年秋から09年秋にかけての経済収縮期


 これからは将来についてのシナリオライティングだ。


 9月15日に始まった金融不安は今後も市場に居座り続けそうだが、当局が打ち上げる、数々の対策や発言などに株価は神経質に反応しながら、ある時は急上昇し、またある時は急落するなど、方向感のない動きを続けよう。今秋以降の最大のテーマは3つ。第1に、経済実体の悪化度合い。第2に、欧米でさらなる大手級の金融機関か企業の破綻が表面化するかどうか。これらに準じる第3のテーマとして、米国の地方金融機関や欧州の金融機関の破綻がどれだけ増加するかだ。


 まず、実体経済の行方だ。欧州では英国の実質成長率がマイナスか0%台に張り付くし、ユーロ圏も1%前後の低成長を続けよう。日本経済も0〜0.5%の低空飛行を続ける。米国もまさにこれから、実体経済の減速傾向が強まってくる。主要7カ国(G7)の経済停滞は、逆資産効果ならびに信用収縮効果と相乗作用を生み、こうした経済ならびに金融収縮は、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など新興経済の成長軌道を屈折させる。株価下落と不動産ブームの終焉(しゅうえん)から、新興経済には08年秋以降、逆資産効果が重くのしかかる。とくに中国のバブルの崩壊は要注意だ。また、資本主義的経済基盤が弱いロシアも、新冷戦の状況如何ではバブル破裂に直面しかねない。


 いずれにせよ、世界不況がこうして08年秋から影を落とし始め、09年はさらに落ち込むことを覚悟しておく必要がある。とくに過去5年間の世界成長の熱狂やブームを考えれば、これは必然的に生起する経済の下方ベクトルだ。というのも、03〜07年の「世界連動好況」は人類史上初めての事変(先進国だけでなく、旧社会主義国発展途上国を含む、地球規模の高成長)で、この過程では強力な上方ベクトルが作用した。換言すれば、あの「5年連動好況」は、人類史上初めての「世界資本主義」の誕生を契機に起動したものだ。資本主義には自己調整力というDNAが組み込まれているから、上方ベクトルの後には下方ベクトルが働く。この自己調整力が今秋から作動してくるのだ。


 問題はこうした下方局面では金融機関にせよ、一般企業にせよ、大型破綻が生起しかねないことだ。これが第2のテーマである。大型破綻が起これば、方向感に欠く世界の株式市場が、「暴落」の金融津波に襲われるのは必至。この場合、ニューヨーク株の1万ドルの大台割れが想定される。そうした衝撃が起こらないとしても、この段階では過去の清算と経済停滞の重圧から、第3のテーマである、経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)な地方銀行、貯蓄金融機関(S&L)や中小ファンドの破綻が米国で目立ってこよう。すでに米大手S&Lのワシントン・ミューチュアル(通称WaMu)はJPモルガン・チェース救済合併されている。また、欧州では、ベネルクス系大手金融機関のフォルティス、英国の中堅銀行ブラッドフォード・アンド・ビングレーB&B)の国有化が相次いで報道されている。
 [第2波]と時期的に重なるが、この過程では、金融機関の整理そして清算が集中的に行われる。政府の不良債権買い取り策は今秋から試行的に企てられるが、本格化は新大統領就任後の09年春以降となろう。また、今秋さらに新大統領就任後の09年春以降、当局から「再編」という形で統合や合併、資本増強のための民間次元の資本注入が、金融機関に強く要請され続ける。


 この局面では、これまでの金融機関同士の統合や資本増強で企てられた「再編の夢」が崩れるケースも出てくる。米国の金融システムの再生にとってまず必要なことは、「再編」という安易な夢を追うのではなく、満身創痍(そうい)の金融機関の整理そして清算なのだ。実体経済の悪化が進行中であり、さらに停滞がしばらく続くとすれば、09年は金融機関の「再編」ではなく、「整理・清算」が主要課題になるとみておくべきだろう。


 経済悪化の中で清算を本格化するのはかなり厳しい。だが、そこに巨額な不良債権買い取りの策の、バックアップ的な役割がある。だから、前回述べたような証券化商品の「買い取り価格」にかかわる金融安定化法案の難点を、新政権は大胆にクリアする必要がある。


 それには金融安定化法を改正して、証券化商品の買い取りにあたっての条件として「金融機関の整理・清算を前提とした集約化」を明記し、安定化法で準備される総額75兆円の公的資金を、効果的な金融集約化のために使えるようにすべきだ。大恐慌時の6年間(1928〜33年)に米国では1万253行の銀行が倒産した。それを受けて1933年に、銀行憲法とされた「グラス・スティーガル法」が制定された。これほどまでの倒産は明らかに問題だが、ブーム崩壊の後始末においては、金融機関のかなりの規模の整理・清算による集約化抜きには、真の金融システム再生は至難だ。


 この点で21世紀のいま、大恐慌の教訓を生かすとすれば、計画的な清算と集約を「再編」の前に行うことになる。これがかつて33年に就任したF・ルーズベルト大統領と同様に、次期米大統領が最優先で取り組む一大事業となる。こうした金融機関の清算過程ではむろん、実体経済の自律的な回復力は生まれてはこない。経済復元の胎動はこの[第3波]が完了する、10年春以降の[第4波]に期待するほかない。


[第4波]10年春からの同秋にかけての再生&底入れ過程


 2010年春頃になって金融清算が最終局面に入る。これは金融システムが「死に体」からやっと息を吹き返してきたことを意味する。ここで、33年の「グラス・スティーガル法」、99年の「グラム・リーチ・ブライリー法」に次ぐ、21世紀金融システムを構想する「21世紀金融制度法」が論議されねばなるまい。金融システムが安定化してくれば、その前に底を打った株価や地価に動きが出てもこよう。経済は遅くとも10年秋には底入れから回復に動き出す。

 以上、前回と今回の2回にわたり、9月15日のリーマン破綻から始まった金融激震の大津波が何故に起こり、いかに波及し、収束していくかを概観してきた。翌週(22日〜)以降、市場は当局の一挙一動に落胆したり、歓喜したりで株価も方向感なく行ったり来たりを繰り返している。市場が依然として緊張下にあるのは明らかだ。だから、前述の第2波(08年秋〜09年秋)や第3波(09年春〜10年春)に不測の事態、例えば大型破綻・倒産や政治的大事件が生起した場合、株暴落が起こり、これが各国の市場に連鎖的な衝撃を加え、世界経済は恐慌に突き落とされるのではないかとの不安が頭をよぎる。


 考えてみれば、たしかにサブプライム問題がこれほどまで広く、深くかつ複雑なインパクトをもたらすと考えた人は、最近まで皆無に近かった。サブプライム関連の損失規模は昨秋の時点でたかだか20兆円前後とされていた。それが、半年後に97兆円とされ、最近では138兆円(IMF試算)に拡大している。誰もこの問題の実相が読めないのだ。だから、何か予期しないことが生起すると不安心理に襲われる。市場がパニックに陥るのは、このような不安心理に人々がとらわれやすいときだ。


 筆者は今回の金融激震は、金融システムの重大な構造的欠陥に震源があり、これが世界経済にも大きな重圧を課していると考える。だから、世界経済についても金融システムについても、希望的観測や先入観に基づく予断を持って診断してはならないと思っている。だが、次の3つの基本的理由により、世界経済が恐慌に陥るリスクはほとんどないと読む。


(1) まず初めに世界各国、とりわけ主要国が協調的絆で固く結ばれていることだ。30年代の恐慌時にあっては、各国が互いに疑心暗鬼のもとで自国利益を優先したことが、事態のさらなる悪化をもたらした。だが、今次金融激震時に先進国の中央銀行は、流動性供給さらにドル供給で迅速に協調体制をとっている。
(2) 30年代の恐慌時には世界経済の長期トレンドは下降局面にあったが、現在の世界経済トレンドは96年に始まる上昇局面にあり、現下の停滞状態は上昇過程における「長い幕間」と位置づけられる。
(3) 30年代は17年のロシア革命後の旧ソ連社会主義建設にまい進していた時代だから、「資本主義の一般的危機」が語られ、資本主義に対する不安が強かった。その不安心理が不況を深刻化させ、恐慌まで突き落とした。だが、21世紀の現在、社会主義は地上から消滅したに等しく、人々は資本主義に頼るほかない。これが資本主義へのエンドレスな不信感を食い止める「歯止め」になっている。



 これら3つの理由から、21世紀の世界資本主義には、恐慌心理が働く余地はないとみてよい。見方を変えれば、資本主義には自己調整DNAが備わっており、上昇すれば下降し、下降すれば上昇するとの調整メカニズムが組み込まれているのだ。世界経済は96年から上昇トレンドに入り、01、02年の「幕間」をはさんで03〜07年までの5年間はBRICsを巻き込んで大ブームを享受してきた。だから、世界資本主義はいま、サブプライムを契機に、この5年間の絶好調から、自己調整過程に突入しているのである。こうみれば、08年〜10年の金融大津波の長期にわたる波及過程は、過去のすさまじい上昇によって蓄積されたぜい肉や疲労をトリミングする、絶好の機会ととらえるべきものなのである。

第91回「聞こえてきた世界大不況の足音――サブプライムローン問題の本番はこれから」(2008/10/06)
 1年前の筆者のいやな予感が的中してサブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)問題が急拡大し、世界中が金融危機におびえている(本コラム第83回「時限爆弾化するアメリカ――サブプライムローン問題は世界不況の前触れ?」)
 わが国では官房長官が「ダメージは限定的」と対岸の火事的なコメントをしていたが、全くの見当違いだ。今回の危機の底流には世界的な構造問題があり、世界は5〜10年単位の「混乱と大不況の時代」に突入したと見るべきだ。
巨大なヘッジファンドと化した投資銀行
 その第1の理由は、1980年代以降の世界経済を直接・間接にリードしてきたアメリカ型投資銀行のビジネスモデルが崩壊したことだ。
 アメリカの投資銀行は、1860年代の南北戦争時に、北軍の依頼で戦時国債を売りさばくことで手数料を稼いだジョン・クックを嚆矢(こうし)とする。以来100年近くにわたり、顧客への資金調達支援と財務戦略助言を本業としてきた。
 だが、1980年代に入ると市場相手のトレーディングや自己投資業務が台頭し、たちまち伝統的投資銀行業務を凌駕(りょうが)した。投資銀行新時代の幕開けだ。
 そのけん引役はソロモン・ブラザーズ(現シティグループ)やゴールドマン・サックスなどの新興勢力であり、今日の投資銀行全盛時代を築いてきた。この間、ミニ投資銀行ともいうべきヘッジファンドも雨後のタケノコのように誕生した。
 近年、彼らは勢いを加速させており、たとえば業界トップのゴールドマン・サックスは、2005年から07年までのわずか2年間でトレーディング・自己投資部門の粗利益を1.8倍に拡大し、昨年は収益全体の3分の2以上をたたき出している。
 いまや投資銀行自体が巨大なヘッジファンドだといっても過言ではない。
“3種の神器”によって編み出された虚構の金融市場
 このトレーディングや自己投資業務を支えたのは、金融工学を核とする先端金融技術の発展であり、その柱は、証券化デリバティブレバレッジという3種の神器だ。
 ここで詳細を解説する余裕はないが、証券化はリスクを分散し、デリバティブはリスクをヘッジする金融技術である。レバレッジは、借入金で投資資金を数倍に膨らませて資本効率を倍増させるという、革命的な金融技術であり、最近の投資銀行自己資本の30倍近い借り入れを集めて巨額の投資活動を展開している。
 彼らは、この3種の神器を複雑に組み合わせることで無限の投機商品を開発し、次々と新市場を開拓していった。いわば、実体経済と乖離(かいり)した虚構の金融市場を構築し、カジノマネーを増殖させていったのだ。
証券化商品の発行額も昨年1年間だけで1.6兆ドル(約168兆円)に達し、企業の債務不履行を保証する商品の残高も62兆ドル(約6500兆円)に上る。この証券化商品はさらに様々な金融商品デリバティブに組み込まれて、その数十倍の規模で世界中の金融市場に拡散される。
 そのデリバティブの残高は2007年6月末時点で516兆ドル(約5京4000兆円)に達した。世界の国内総生産(GDP)は約54兆ドルだから、いわば実業の世界の実に10倍近い虚構の世界が広がっている。
 かくして、カジノマネーの象徴ともいうべきヘッジファンドだけでも、その資産規模はこの5年間で実に3倍も膨張し、昨年末は約1.9兆ドル(約200兆円)に達した。これに銀行借り入れ(レバレッジ)を加えれば、4.8兆ドル(約500兆円)〜6.7兆ドル(約700兆円)という、わが国予算の6〜8倍もの投機資金が、世界中を駆け巡っていることになる。
 サブプライムローン問題の本質は、こうした投機市場が臨界点に達したことにある。
投資銀行ビジネスは完全に頓挫
 アメリカ政府は、98年のロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)破綻の際も、「いざとなれば市場に資金供給すれば危機を回避できる」という対症療法だけを学び、その後も野放図に投資銀行ビジネスを拡大させてきた。今そのツケが一気にはじけ、LTCM破綻時の数十倍のマグニチュードで世界を襲っているのだ。
 だが、今回の一連の救済的再編劇の中でアメリカの投資銀行はすべて銀行業に組み込まれ、今後は米連邦準備理事会(FRB)や国際決済銀行(BIS)の厳しい監視下に置かれる。特に、レバレッジに対する規制が強化されることは確実であり、投資銀行ビジネスにとっては財源を失うという、決定的な打撃になるはずだ。
 かくして、これまでのような先端金融技術を使った市場開拓は完全に行き詰まったと見るべきだろう。
モラルなき利益追求に注がれる厳しい目
 倫理やモラルハザードの問題も見逃せない。80年代以降の投資銀行ビジネスは、常に金融犯罪や社会的批判の問題を内包しながら拡大してきた。
 80年代後半のゴールドマン・サックスなどによるアイバン・ボウスキー関連のインサイダー事件、91年のソロモン・ブラザーズによる国債不正入札事件、90年代のモルガン・スタンレーなどによる新規株式公開(IPO)市場操作事件、2000年のシティグループソロモン・スミス・バーニー部門)などによるエンロンワールドコム不正会計事件、04年のシティグループ日本法人によるマネーロンダリング事件など、枚挙にいとまがない。
 今回のサブプライム問題でも、すでに米連邦捜査局FBI)や米証券取引委員会(SEC)がモルガン・スタンレーなど14社について、詐欺容疑などで捜査に着手した。
 先日、経済小説家黒木亮氏からの依頼で彼のベストセラー「巨大投資銀行」の解説文を書いた(今月中に文庫本化の予定)。本書では投資銀行ビジネスの強引な商法が随所に登場するが、そのほとんどが実話であり、改めて投資銀行の強烈な拝金主義と壮大なモラルハザードに吐息が出る。
 今回の公的資金の投入について多くのアメリカ国民が反発している背景には、「なぜ反社会的行為で暴利をむさぼっていた金融機関を救済しなければならないのか」という根強い不満があり、政府も議会もこれを無視することはできまい。ヨーロッパ各国も今は目前の危機回避に精一杯だが、一段落すればアメリカ批判を噴出させることは明らかだ。
 かくして、投資銀行ビジネスは企業倫理の観点からも今後大きな制約を受けることは明白であり、これまでのような「濡れ手で粟(あわ)」の時代は幕を下ろす。
第2に、こうした投資銀行ビジネスの行き詰まりはアメリカ経済に甚大なダメージを与える。
 アメリカにとって、金融・不動産業は今やGDPに占めるシェアが20%を超える最大の産業に成長しており、その中核を投資銀行ビジネスが担ってきた。
投資銀行業務は80年からの15年間で実に14倍、ファンド・ビジネスは16倍に急成長した。この4半世紀、凋落(ちょうらく)するアメリカ経済をカバーしてきたのは投資銀行ビジネスだったといっても過言ではない。
 しかも、投資銀行ビジネスは、商業銀行、機関投資家、保険会社、不動産、弁護士、会計士などを巻き込む、すそ野の広い産業だ。
 例えば、商業銀行は、巨額のレバレッジ資金を投資銀行ヘッジファンドに貸し付けることで高収益をあげてきたし、機関投資家地方銀行などは投資銀行のリスク商品を資金運用することで高実績を確保してきた。保険会社は証券化商品やデリバティブに保険を付与し、弁護士は膨大な契約に介入して手数料を稼いだ。もちろん、不動産業とは証券化やプロジェクト・ファイナンスなどを通じて一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係を築いてきた。
 いわば、投資銀行ビジネスは巨大な連合艦隊であり、空母役である投資銀行の存在は圧倒的だ。ゴールドマン・サックスの昨年の純利益は115億ドルとシティグループ銀行部門の120億ドルに肩を並べる。
 その空母が機能不全に陥れば、金融界のみならず産業界全体に大きなダメージを与えることは間違いない。
家計も直撃、不況は長期化へ
 さらに、投資銀行ビジネスの停滞は個人の家計も直撃する。周知のとおり、アメリカは証券の国、投資の国だ。家計の資産構成は投信・株式が43.2%と圧倒的に高く、現預金割合は13.9%と極端に低い(わが国は52.0%)。
 今回アメリカの一般国民がサブプライムローン問題で受けたダメージは、われわれの想像以上に甚大で、今後消費や住宅建設の減退などの形で実体経済を直撃することは間違いない。
 筆者は87年のブラックマンデー直後からの4年間ニューヨークに駐在したが、アメリカでは町中に物乞いがあふれるなど、その後3年近くも深刻な不況が続いた。結局、その時は日本から流入した大量のバブル資金で息を吹き返していったが、今回は救世主出現の期待は薄く、不況の長期化は不可避だ。
 第3の懸念は、今やこのアメリカ的な金融風土が世界中に拡大していることだ。
 筆者は、この7月、数年ぶりにイギリスを訪問したが、様々な場面で「アメリカ化」を実感した。金融街ティーウォール街から転職してきたインベストメントバンカーであふれ、別地域に新金融街を拡張するほど膨張していた。伝統的な銀行業やマーチャントバンクが中心だったシティーは、この10年間で第2ウォール街に変貌(へんぼう)したようだ。
 この間マンションなどの不動産価格は異常に高騰し、完全に投資商品化した。ロンドンの1等地では日本の高級マンション価格を凌駕(りょうが)するほどだ。
 一般国民は不動産や株式投資への関心を格段に高め、富裕層はますます豊かになった。サウス・ケンジントンの高級住宅街にはスノビッシュなレストランが出現し、超高級車ランボルギーニベントレーのディーラーが立ち並ぶ。「質実剛健の国イギリス」も、いつの間にか拝金主義的な「アメリカ化」の大波をかぶっていたのだ。
 多くのイギリス人は、この10年近く続いた繁栄は外資による「ウィンブルドン化」が最大要因だといい、そのけん引役は金融であり、投資銀行ビジネスだったと異口同音に解説する。だが、今はそれが裏目に出ている。不動産価格は昨年半ばから突然20%近くも下落し、2004年以降発表されたオフィスビル建設計画19件のうち、16件が滞っているという。いうまでもなく、投資銀行ビジネスにブレーキがかかり、海外からの投資資金が急減したからだ。
 個人の消費意欲も急速に減退し、財務大臣が「この60年間で最悪の下降局面に直面している」とコメントするほど不況色を強めている。
エピゴーネン(追随者)たちの浮沈
 スイスやドイツなど他の先進ヨーロッパ諸国も事情は類似する。
 その象徴はスイスのUBSだろう。UBSは、91年のオコナー社を皮切りに投資銀行の買収を重ね、わずか10年足らずで小国の商業銀行から世界有数の投資銀行に駆け上がった。だが、彼らはLTCM破綻のときも今回のサブプライムローン問題でも深刻な経営危機に陥った。
 筆者には、結局UBSはアメリカ的な投資銀行になりきれなかったことが最大の敗因だったように思えてならない。アメリカの投資銀行のように、商品や市場をオリジネート(創造)することなく、もっぱらレバレッジ貸し出しや金融商品の運用など、いわば脇役を演じてきたように見えるのだ。
 その結果、いつも制御困難なリスクの海を航海させられ、アメリカのヘッジファンド投資銀行がつまずく都度、その直撃を受けてきたのではないか(本コラム第88回「UBS3度目の失敗――人間はどこまでリスクを管理できるのか」)。
 他のヨーロッパの金融機関も同様だ。外見は投資銀行的でも、ビジネスの大部分をアメリカの投資銀行ヘッジファンドに依存しているのが実態だろう。今、UBSだけでなく、金融機関の優等生といわれたイギリスのロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)までもが株価を急落させて緊張を高めている。
 今回のサブプライムローン問題は、結局ヨーロッパの金融機関もアメリ投資銀行ビジネスの連合艦隊に組み込まれていたという実態を浮き彫りにした。アメリカの投資銀行ビジネスの凋落はヨーロッパの金融界に構造的なダメージを与え、いずれヨーロッパ経済全体にも深刻な影響を及ぼすことは確実だ。
 第4の懸念は、サブプライムローン問題を契機とした中国のバブル崩壊だ。
 筆者は先月、大連、瀋陽ハルビンなど中国の東北部を訪問した。そこで見たのはまさに不動産バブルそのものだった。
 大連ならいざ知らず、沿岸地区から遠く離れた内陸のハルビンですら、川沿いのマンションは日本円で1億円以上もする。いうまでもなく多くは投資対象になっており、空き家も少なくない。
 現地の中国人に聞くと、銀行はマンション購入資金であれ、車の購入資金であれ、少額の頭金でいくらでも融資してくれるという。やがてマンション価格が上がれば担保余力ができ、さらに追加融資を受けて別の物件に投資する。現にどこへ行ってもマンションの建設ラッシュだった。
 この構図は、かつてのわが国のバブルや最近のアメリカの住宅バブルに酷似する。
 しかも、恐ろしいのは、彼らが退職金を全額株や不動産につぎ込むなど、クレージーな投資を繰り返していることだ。筆者は、北京や上海がバブルの渦中にあることは承知していたが、こんな地方都市までがバブルに踊っていることに衝撃を受けた。
 中国のバブルは必ずはじける。今後サブプライムローン問題の余波で中国が金融政策を転換すれば、一気にバブルがはじける可能性が高い。その時内外に与えるダメージの大きさは筆者の予想能力をはるかに超える。
中国に流入した投機マネーの行方
 この点でもうひとつ注目すべきは、最近の対中投資動向だ。
 中国は2002年以降毎年500億ドル以上という驚異のペースで海外からの直接投資を受け入れてきた。中国急成長の原動力だ。
 だが、ごく最近の流入ピッチは異常だ。06年の658億ドルから昨年は748億ドル、そして、今年は上半期だけで前年同期比45.6%増の524億ドルに膨れ上がった。その内訳をみると、不動産業が全体の22.7%の119億ドル(約1兆2500億円)と群を抜いて高い。
 さらに、当地の学者やエコノミストたちは、人民元切り上げを見込んだホットマネーの流入を示唆している(JETRO「2008年上半期の対中直接投資動向」)。中国では本来厳しい外資規制があり、投機マネーが侵入する余地は少ないが、それでも虚偽の投資報告などによる抜け穴は存在するようだ。
 筆者の推測では、こうした投機マネーはかなりの部分が最終的に不動産に流れているはずだ。1997-98年のアジア通貨危機ではないが、この投機マネーが現在の不安定な金融環境の中で一斉に引き揚げれば、一瞬のうちにバブルが崩壊するような気がしてならない。
 いずれにせよ、中国経済はハラハラ時計を抱えて走らなければならず、これまでのように世界経済の機関車役を果たし続けることは困難になるだろう。(中国レポートは別の機会に紹介したい。)
 かくして、世界経済は「混乱と大不況の時代」に突入した。わが国も、アメリ投資銀行ビジネスの連合艦隊に組み込まれていなかったという僥倖(ぎょうこう)で金融界のダメージこそ小さいが、世界経済の急落と投資マネーの縮小でかつてない難局に直面することは確実だ。今後、わが国をはじめ世界がこの苦境から脱出するには、相当の時間とエネルギーを要するだろう。
 ここで詳細を分析する余裕はないが、アメリカ経済は60年代後半から凋落をはじめ、80年代以降は投資銀行ビジネスがその穴埋めをしてきたという歴史的事実がある。政府が金融立国への転身を図り、全力で投資銀行ビジネスを後押ししてきたというほうが正確だ。
 98年のシティコープとトラベラーズの非合法な合併を承認したロバート・ルービン元財務長官も、現在のヘンリー・ポールソン財務長官も、ゴールドマン・サックス出身である。日本でいえば、野村証券の社長が財務大臣を務めるようなものだ。
 その投資銀行ビジネスが行き詰った今、ふたたび不健全なアメリカ経済と脆弱(ぜいじゃく)なドルという実態が浮き彫りになる。
「キリギリス的生き方」と決別できるか
 結局、最終的にはアメリカが財政赤字と経常赤字を改善してドルの信認を回復するしか経済再生の道はない。そのためには、ローレンス・サマーズ元財務長官が指摘するように、「アメリカ国民が身の丈に合った生活」に回帰するしかないだろう。
 国民は借金依存の消費を抑制し、政府は膨張する軍事費を削減し、FRBは拝金主義的な金融風土を改革することが必要だ。長い間「キリギリスの人生」を享受し、世界の番人を自認してきた誇り高いアメリカ人にも、しばらく「アリの人生」を忍耐してもらうしかない。
 その過程で日本をはじめアメリカに依存してきた多くの国も大きな苦痛を味わうだろうが、世界が次の新しい時代を迎えるための陣痛のようなものだ。逆に、今回も中途半端な対症療法でお茶を濁せば、近い将来、今度こそアメリカ発の大恐慌を招くに違いない。
アメリカの時代、終わりか新たな始まりか
 筆者が生まれた60年前、ブレトン・ウッズ体制によってイギリスから基軸通貨を勝ち取ったアメリカは絶頂期にあった。
 ロシアの経済学者ニコライ・コンドラチェフは「産業国家の経済的発展は50年持続する波の中に生ずる」という有名なコンドラチェフの波の理論を提唱した。
 今のアメリカに次の50年の繁栄を持続させる新しい種は芽生えているのだろうか。それとも、脳幹に刻み込まれた「アメリカが世界の中心」という観念を捨てなければならないのだろうか。
 われわれは今、世界の大きな転換期の中にいることを実感する。