世界の景気拡大の追い風に乗り業績を急拡大している商社。その筆頭が三菱商事だろう。
 2006年3月期の連結純利益(米国会計基準)は会社計画で前期比1576億円(86%)増の3400億円に達し、最高益を更新する見込み。期初に会社が発表した予想に比べ600億円も上方修正された。同じく最高益となる三井物産()(1800億円)や住友商事()(1400億円)に比べても、収益力の強さが際立つ。株価も堅調でこの1年間で約2倍の水準に達し、今年4月には上場来高値を更新した。
金属・エネルギー事業が好調
 好業績となったのは、資源価格の動向が収益に直結する金属やエネルギー事業の影響が大きい。代表的なのが、鉄鋼原料として高炉各社に納める強粘結炭と呼ばれる石炭だ。中国などの経済成長で鉄鋼需要が急増したことを背景に、2004年度に1トン当たり56.5ドルだった強粘炭の価格が、2005年度には125ドルと2倍超に急騰。前年度に247億円だった豪州子会社による持ち分利益が、これに連動して大幅に増額される。
 その結果、鉄鋼製品を扱う子会社の収益拡大などを合わせると、石炭を扱う金属部門は2005年度の第3四半期までの部門別増益率は前期比134%に達した。液化天然ガスLNG)では、日本向けの半数近くを占めるエネルギー部門も大幅増益を達成。資源高の恩恵をフルに享受している。
 快走を続ける同社の先行きを占ううえで注目されるのが、4月28日の決算発表に合わせ公表を予定している中期経営計画の見直しの中身だ。2004年7月に発表した中期経営計画「イノベーション2007」では、2008年3月期の連結純利益の目標を1800億円としていたが、前倒しで達成したことから、改めて目標を設定する。
 日米欧の景気拡大に加え、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)経済も好調なことから、今年も世界の経済成長が見込まれる。原油価格が過去最高値を更新するなど強含んで推移しているように、資源価格は今後も高止まりするとの見方が強い。ただ、米原先物相場が1バレル=40ドル台から70ドル前後まで上がったような、2005年度ほどの高い上昇率が続くとは限らない。この4月からの鉄鋼原料炭の価格が約8%値下がりしたように、急角度の上昇には一服感もある。
好業績で投資余力は拡大「2006年度の商社は、非資源関連の競争力がクローズアップされる」(みずほインベスターズ証券の桜井宏アナリスト)と見られる。その点でも、三菱商事の評価は高い。 例えば、資源関連と並ぶ中核事業である自動車。いすゞ自動車()と組んでタイで展開するピックアップトラック事業は順調に拡大している。タイでトップシェアを獲得し、輸出拠点としてさらなる成長を目論む。2005年には両社でメキシコに参入したほか、この4月には米ゼネラル・モーターズGM)が手放したいすゞ株を引き受け、新市場での連携を強化する考えだ。
 一方、経営再建中の三菱自動車()とはインドネシアなどで事業を展開しており、今後は大市場に成長すると見られる中国でもビジネス拡大を狙っている。
 資源、非資源の両面でバランス良く稼ぐ三菱商事にとって、今年のテーマは、さらなる業績拡大に向けた「仕込み」をどうするか。三菱商事では既に純利益の約7割を事業投資が生み出すようになっている。
 「イノベーション2007」では、2007年度までの4年間で8000億円もの新規投資をする計画を打ち出しており、サハリンのLNG事業向けなど、2005年度の第3四半期までに約5000億円分を実行した。経営不振に陥った三菱自動車を事実上救済するための投資がかさむといった誤算はあったものの、好業績が続き投資余力は大幅に拡大している。
 小島順彦社長は「様々な新規案件が待ち構えている」と積極投資を持続する考えを強調している。資源、非資源のバランスを保ちながら優良な投資案件をいかに発掘するかがより重要性を増しそうだ。